空き家・空き地を高齢者の交流の場に
生きがいをみつけるコミュニティー
高齢の父や母に一人暮らしをさせるのは心配です。かといって同居も簡単ではありません。そんなこともあり、一人暮らしの高齢者は増加の一途をたどっています。しかも、この流れは今後もますます強まるばかりです。
地域社会の高齢者同士が助け合い、生きがいをみつけるためのコミュニティーがあればいいのに…。神戸市の特定非営利法人(NPO)アルモニーは、空き家や空き地などを活用して高齢者が交流する場を作り、高齢者の持つ知識や知恵を社会に提供することで、地域社会の活性化につなげようとしています。
「高齢者はきっかけがないと外出もおっくうになり、引きこもりがちになります。折しもコロナ禍で、そういう傾向に拍車がかかりかねません。しかし、元気な高齢者も多く、みんなが自然に集まって活動する場があれば、状況は変わります」
アルモニーを設立した宮﨑定雄さんの挑戦は少しずつ実を結びはじめています。
高齢者が交流する場を創出
山岳写真なども手掛ける写真家として活動してきた宮﨑さん。老後をのんびり過ごそうと神戸の郊外に居を構えました。景色や街並みが気に入り、近隣を散策している中で、ところどころに老朽化した空き家があることに気づきました。
「景観上もよくない。これはなんとかしなければ」
宮﨑さんの取り組みはこうして始まりました。公的機関や不動産会社などに紹介された空き家を、高齢者を中心とするアルモニーの会員とともに手弁当で修繕。リフォームした上で書道教室やセミナー、会合などを開催するなど、“高齢者の居場所”を生み出してきました。空き地はコミュニティー農園として活用。今では2カ所の“元空き家”、3カ所の〝元空き地〟を約20人の会員とともに運営するまでに拡大しました。
「定期的だったり強制的な感じのイベントにすると、なかなか集まらなくなりますね。その都度意向をくんで企画することで、にぎやかな交流が実現します」
コミュニティー自体は、おおらかで自由に楽しむことを基本としています。 一方で、近隣の居住者に対する配慮も欠かしません。
77歳になる宮﨑さんは「免許返納したが、最近また取得しなおし、原付バイクで拠点を回っています。拠点近隣のみなさんに声をかけ、コミュニケーションをとるようにしています。地域の理解がないと、こういう取り組みはうまくいきませんからね」
簡単な修復や工事は“手作り”
宮﨑さんは、こうした取り組みのさらなる拡大を目指しています。600坪の物件を活用し、福祉施設を作ろうというのです。
これまでと同様、簡単な修復や工事は会員とともに行い、建設費用を節約します。障害者も対象とした施設とすることで、交流の幅も広げていきます。
「とはいえ、お金はかかります。施設で働く人の人件費も必要となります。持ち出しばかりではなく、これからはちゃんとお金が回る仕組みづくりも重要です」
福祉施設となると、開設できるエリアなどについての規制もあります。物件を紹介されても、いろいろな事情で作れないことが多い。実際に、宮﨑さんは用途面の規制を調べるだけでもだいぶ苦労したといいます。
日頃からコミュニケーションを
精力的に神戸市内の空き家・空き地を利活用してきた宮﨑さん。今後、同じように活用する方々に向けて、アドバイスをいただきました。
「(建物の)近隣に住んでいる方々とのコミュニケーションは非常に重要です。普段から、できるだけ話をすることが大切です。」
世界的にも例のない超高齢社会が到来し、人生100年時代も目前です。まだまだ元気な高齢者同士のコミュニケーションの場を生み出し、生きがいを見つけることで、さらに広く社会との融合、活性化を目指すことは大いに意義があります。
アルモニーはこの課題解決に、同じく社会課題となっている空き家、空き地を組み合わせる形で取り組みます。一連の活動の成果は、今後の日本の課題解決にも大いに役立つかも知れません。